ショパンは作品10と作品25にそれぞれ12曲ずつ、没後に発表された3曲と合わせて全部で27曲のエチュードを残しました。
エチュードとは「練習曲」という意味で、ピアノの演奏テクニック習得を目的としています。
日本のピアノ学習者にとって練習曲といえばハノンや、ツェルニー、ソナチネなどを連想する方が多いと思いますが、まあお世辞にも練習曲=楽しいとは思えない、結構つまらない曲が多かったですよね。。
しかし、ショパンの練習曲は違うんです。
単なるテクニックの習得だけにとどまらず、和声進行、美しいメロディーなど、その音楽のひとつ一つに深い精神性を携え、練習曲とは思えない芸術性の高さを評価されています。
難易度はどの曲も高いのでなかなか弾けないのが現実なのですけどね。
出版当時はあまりの難しさ故、「まともな人間はこんなものを弾いてはならない」と酷評されることもあったそうです。
それでもなお多くの人が憧れ、目標にされることも多いこのショパンのエチュード。
それだけ人の心を動かせる魅力があるということです。
どうも、ピアノ愛好歴30年のこまるほまるです。
前置きが長かったですね。。
ショパンのエチュードとなるとつい興奮してしまいました。
今回はそんなショパン エチュード作品10にスポットをあてたいと思います。
作品10には「別れの曲」「黒鍵」「革命」などの有名曲がありますよ。
「エオリアンハープ」「蝶々」「木枯らし」「大洋」などが含まれる、エチュード作品25については以下の記事にまとめています。
お時間ありましたら合わせてご覧ください。
以下、私なりに感じたエチュード作品10の難易度とともに、各曲が持つ特徴、難所との向き合い方などを記します。
結局どんなところが難しいの?
ショパン エチュード作品10 各曲を難易度とともに解説!
エチュード作品10-1 難易度Lv.5 ★★★★★
右手の拡張と柔軟性を追求した曲
右手で音域の広いアルペジオが終始高速で続きます。
これでもかってほど右手を広げて弾きます。
5-3間の指の拡張とか、腱が外れそうな勢いです。。
が、この曲の持つ雄大さを表現するためには、そんな困難をすべて包み込む柔軟性が必要です。
また、手の移動が少しでもスムーズになるように、手首の回転を取り入れながら、進行方向に腕を先行させるような意識を持ちます。
フレーズ単位での和声進行で曲の展開を感じながら弾きましょう。
「滝」とか「階段」という通称があるみたいですが、
そんな呼ばれ方はこの曲のスケールの大きさに見合いませんね。
エチュード作品10-2 難易度Lv.6 ★★★★★★
右手345指の完全な独立を目指す曲
右手の345で半音階を上行下降し続けます。
不自然な指の交差が最後まで続くため、極めて難しい曲ですが、聴くとそこまでの難度は感じないという、演奏効果と難易度の乖離が非常に大きい曲です。
エチュード集の最初の方にあるからといって簡単に手を出すと、必ず壁にぶちあたりますのでそのことを良く理解した上で根気よく取り組みましょう。
右手345の細かい動きだけならまだしも、右手12で和音を鳴らしつつ弾くというのがなんとも厄介です。
その和音は左で弾けば良いとの意見もあるみたいですが、じゃあ何のための練習曲なの?という問いが生まれます。
ショパンの指示はあくまで右指の訓練の為のものです。
この曲は「半音階」と呼ばれることもあります。
まあ、そのままですよね。。
エチュード作品10-3 難易度Lv.4 ★★★★「別れの曲」
メロディーを浮き上がらせ情緒を醸し出すための練習曲
日本では一般に「別れの曲」と呼ばれ親しまれています。
エチュードの中で最も美しいメロディーだと、ショパン自身も自分で言っちゃうほど。
情緒を表現する力が身につく曲です。
中間部の盛り上がりは、和音の連続でミスをしやすい部分でもあるので、確実に和音が押さえられるよう、2音、3音、4音ずつ細切れでの反復練習、およびリズム練習で体に覚えこませます。
エチュード作品10-4 難易度Lv.5 ★★★★★
あらゆるメカニックな動きの修得を目指す曲
両手で高速の16分音符が続きます。
その中で小さなトリルのような動きやトレモロが出現するなど、両手で様々な技術を要求されます。
メカニックな動きを要求されるとはいえ、機械音的になってはいけません。
しっかりと拍の頭を意識しながら、連続する16分音符に少し起伏がつくイメージで途切れないように弾きます。
入れ替わり立ち替わり、様々な弾き方が現れますので、
それらをどう音楽的に繋げて曲としてまとめるかという、構成力の訓練にもなる曲です。
ウィキペディアによると、通称「奔流」だそうです。
この呼び名はぴったりだと思います。
エチュード作品10-5 難易度Lv.4 ★★★★「黒鍵」
右手はほぼ黒鍵のみを弾くという曲
右手はある1音以外、すべて黒鍵のみで構成されているため「黒鍵のエチュード」と呼ばれて親しまれています。
ショパン自身は、
「右手がほぼ黒鍵というだけで、たいして音楽性のないつまらない曲だ」
と言ったそうですが、いやいや。
とっても楽しい曲ですよ。
まあるい音のツブが縦横無尽に弾ける感じです。
ショパンは黒鍵だけ弾くというコンセプトが、他と比べてなんか弱い、と感じていたのでしょうかね。
エチュード作品10-6 難易度Lv.2 ★★
右手のメロディーを聴かせてさらに情緒を醸し出すための練習曲
作品10の3番「別れの曲」の冒頭は暖かく包み込むような美しい旋律でしたが、
この6番はのっけから憂いのある旋律で、アンニュイな雰囲気で始まります。
ゆっくりとした曲調で、難易度は高くありませんが、3番「別れの曲」よりもさらなる情緒表現が求められます。
大人の曲というか、酸いも甘いも嚙み分けた境地の方が弾くと味が出るような旋律ですね。
大きなフレーズを感じて、流れを止めずに弾きましょう。
エチュード作品10-7 難易度Lv.5 ★★★★★
1−2指の同音連打を起点とした右手の和音のための練習曲
エチュードの中でも難しい部類の曲で、人によっては非常に弾きにくい曲です。
ゆっくり練習しているとメロディーを感じにくく、退屈になってきますので、
メロディーラインがどこなのかをまず確認し、その部分のみ弾いて曲の流れを掴みましょう。
エチュード作品10-8 難易度Lv.4 ★★★★
右手の柔軟性、軽やかさを追求できる曲
メロディーラインは主に左手です。
それに乗って右手は軽快に駆け巡る、テンポの良い曲です。
節目で一度落ちついてテンポの仕切り直しをしないと、どんどん暴走してしまいます。
ラストのユニゾンを落ち着いて弾くためにも、適切なテンポ設定で弾きましょう。
エチュード作品10-9 難易度Lv.3 ★★★
左手首の柔軟性を養う曲
難易度は比較的低めですが、左手は広い音域でうねるように音が移動するため、手首を上手に動かす練習になります。
私はこの曲を弾くことで、指を広げただけでは届かない距離の移動も、手首の回転を加えると容易になることを知りました。
エチュード作品10-10 難易度Lv.5 ★★★★★
右手の6度の分散和音の練習曲
華やかな印象の曲なので、レパートリーに加える方も多く、人気があります。
冒頭は拍の取り方に戸惑うかもしれませんが、スラーの位置をよく見てゆっくりと練習することで慣らして行きましょう。
中間部、転調する部分は難所なのですが、ショパンの高い音楽性を感じ取れる部分であり、弾いていて面白い部分です。
ここは左手の低音をしっかり聴いて全体を支えましょう。
エチュード作品10-11 難易度Lv.3 ★★★
両手のアルペジオをキレイに鳴らすのための練習曲
ポロロロロンと常に両手がハープのようなアルペジオで構成された曲です。
音域の広いアルペジオは色々な曲で登場しますから、この曲で十分に準備しておけば、ハードルも下がると思います。
ここでも手首の柔軟性が求められます。
指だけで弾いていると痛めてしまう可能性もあるので、手首の回転で指の動きをアシストして弾きましょう。
エチュード作品10-12 難易度Lv.4 ★★★★「革命 」
左手を高速で自在に動かすための練習曲
不協和音をこんなに効果的に取り入れた作曲家、他にいますでしょうかね。。
おなじみのこの「革命」ですが、うねるような高速の左手を弾きこなせるかが課題です。
右手の主題が有名すぎるのですが、左手の音楽性も非常に完成度が高く聴きどころ満載です。もちろん弾きどころも。
難易度はエチュードにおいては普通レベルというか、
ゆっくりとさらえば一通り弾けてしまう方も多いことから、意外にも取り組みやすい曲だったりします。
お手本動画
ウラディーミル・アシュケナージ氏の演奏です。
精密ながらも決してマシン的に聴こえない、人間味や温かさを感じられる演奏で、泣けます。
最後に
ショパンのエチュードはピアノを弾く方ならぜひ取り組んで欲しい、不朽の名作ばかりです。
誰もが耳にしたことがある有名曲もあれば、隠れた傑作まで。
どれもかなりの難曲ですが、弾きごたえ、聴きごたえバッチリです。
根気よく練習を重ねて、ぜひあなたのレパートリーに加えてみてください。
それではまた。
こまるほまるでした。